初めに
まず、両発表会にご出席なさった先生方とMRI研究会ではゲルべジャパンさん(マグネスコープの開発会社)。なおこの記事は企業案件ではありません。
こちらの記事では、2022.10.15に開催された、「第15回静岡県MRI技術学会」についての感想と講演中にラドピーが理解できなかった単語について触れていきたいと思います。
第15回 MRI技術研究会 演題
私が試聴させて頂いた演題は以下の3演題でした。(企業講演に関しては割愛させていただきます)
- 小児MRIの検査環境について
- 備えあれば憂いなし安全な小児 MRI検査を目指して
- 小児中枢神経のMRI-検査の為のヒントとポイント
小児MRIの検査環境について
発表者:静岡県立こども病院
感想
子供を扱うというだけあり、大変施設に配慮されていると感銘を受けました。静岡県立こども病院さんでは、通常のMRI設備(検査室+操作室+機械室)に加えて、MRIの検査エリアに安静室と麻酔室が存在しており、安静室では親御さんが小さな患者様をあやす部屋があり、麻酔室では医師が麻酔を投与する部屋があるそうです。
撮影中にも、監視カメラにて検査室のみならず安静室の中をモニタリングしてくださっているというのが体制がしっかりとしているという印象でした。
発表の中で驚いたのは、小児MRIを撮影するにあたって覚醒状態から安静状態に移行するには薬物投与のみが手段であるとラドピーは思い込んでいましたが、母親がミルクを与えることによって覚醒から安静状態に移行する症例もあるとの事でした。
質疑応答では、検査枠の事についても触れていました。子供の検査という事で思うように検査が進まない状況もあるのかと思われますが、基本40分の時間枠で検査をこなしているそうです。
難語
鼻カニュレ
麻酔科でのMRIの際に使用する器具の紹介の一幕で出てきた単語です。正式には「鼻カニューレ」らしいです。存在自体は日常業務でよく見るので馴染みがあるのですが、正式な名前は疎かったです。
看護系のWebサイト「看護roo!」さんによると
鼻カニューレとは・・・
鼻カニューレ(はなかにゅーれ、nasal cannula)とは、酸素を供給するための3~5mmほどの内径のカニューレである。両側鼻腔から、目安として5L/分までの酸素流量で約40%までの吸入酸素濃度を投与でき、呼吸困難の緩和、身体各器官の機能の酸素供給を正常に保つことを目的として用いられる管状の医療器具である。
”看護roo!”より引用https://www.kango-roo.com/word/14774
よく、ストレッチャー(車輪がついたベッド)に寝ている患者様が酸素ボンベと一緒に鼻に付けて酸素吸引目的で使う物です。撮影時には、看護師さんがよく1〜3リットル/分に調整してくださっているのをみますが、6リットル/分異常だと鼻腔が乾燥する為望ましく無い適用らしいです。
EtCO2 end-tidal carbon dioxide tension:呼気終末二酸化炭素分圧
麻酔下患者様の状態を観察する際に、発表者の施設がモニタリングしているパラメーターの場面にて出てきた単語になります。
こちらも、看護系のWebサイト「看護roo!」さんによると
ETCO2 は、カプノメータで測定され、主に換気が行えているかどうかを評価するものである。
ETCO2の値は、PACO2 とほぼ近似するが、通常2〜5Torr程度低い。PACO2とETCO2の差が大きくなる場合には、死腔換気やシャントの増加が考えられる。
ETCO2は呼吸・循環・代謝の影響を受けるため、他の因子の評価も同時に行う必要がある。
”看護roo!”より引用https://www.kango-roo.com/learning/3338/
とあります。ここで私は、SPO2と何が違うんだろうと思ってしまいましたが、EtCO2は測定の方法も測定の対象も全然違います。まとめた表を以下に添付します。
加えて、質疑応答の場面においてSPO2モニターとEtCO2モニターを同時につけるメリットとは何、という質問がありました。その回答として「SPO2モニターは呼吸が停止しても1分程度は変化しないことが多い。一方EtCO2であれば呼気と吸気を見ているので呼吸停止に素早く気づける」との回答がありました。
備えあれば憂なし
発表:富士市立中央病院
感想
子供の検査は、体動との戦いになる場面が多くなりますが発表者の施設では真空固定具を用いて固定精度を高めている所に工夫を感じられました。
固定具の使用にあたって固定ばかりに気を取られそうですが、頭部MRIでは鼻とヘッドコイルの間に空間が空いているのかを確認することが重要ポイントらしいです。
同類の商品がオリオンラドセーフメディカルさんより販売されており、同サイトに特徴として以下のようなことが挙げられてます。
- 絹のような肌触り
- 洗浄の簡便さ(水洗いOK)
- 保温性
難語
ART:Acoustic Reduction Technology(和訳:減音化技術)
小児の検査時における配慮での工夫の場面で出てきた単語でした。ARTとは静音化技術の事です。
MRIの撮像はコイルと磁石との関係性により成り立っており、撮像に伴ってコイルの振動が必ず起きます。この振動の量はフレミングの左手の法則によってローレンツ力として表せれます。この力は以下の式によって表現します。
ローレンツ力=電流値×磁場強度
この為、EPI法などの傾斜磁場のスイッチングが激しい撮像方法では高周波の音が撮像に伴って発生し、これが騒音となる。また、これは傾斜磁場のスイッチングの話であったが磁場の強度は電流値に比例するため、傾斜磁場コイルに流れる電流が大きいほど騒音も大きくなります。そこで、電流に着目した技術がARTであり、傾斜磁場コイルに流れる電流を小さくすることで騒音を小さくする事を可能にしました。
ARTにはメリットとデメリットがあり以下の通りになります。
メリット:静音化が可能
デメリット:撮像時間の延長、血管など動きのあるものは位置ずれを起こしやすい
日齢、月齢
先ほど紹介した、真空固定具を胎児の成長度合いによって選択するという場面において出てきた単語です。
日齢:出生からの経過時間を日数で表現する方法です。この事から、日齢の子供というと、出生1から31日までの子供である事が考えられます。
月齢:出生からの経過時間を日数で表現する方法です。この事から、月齢の子供というと、出生1ヶ月から12ヶ月までの子供である事が考えられます。
特別講演 小児神経MRI
発表:静岡県立こども病院
感想
医師の講演という事で、ついていくのがやっとの講演で大変難しかった印象ですが、前2人の演者の方はうってかわって医師目線での発表という事で参考になる場面は多くありました。
特に2相性脳症の講演については目から鱗でした。ポイントは以下の通りです
1相目:画像的所見が出にくい
2相目(グリア細胞が細菌に再び敗北した状態):拡散強調画像において、脳皮質が高信号化
とされています。ここで、1相目に2相目が来るかもしれないかもしれないので、1相目の撮影時に演者が放射線技師にやってほしいとおっしゃっていた事に2点ありました。
- 前頭葉領域においてMRS撮影→グルタミン酸の値の上昇
- ASL画像の撮影→神経がグルタミン酸によって破壊された領域で血流が低下する
ここで、前頭葉にした理由は後頭葉よりも血流が前頭葉の方が豊富にあるからだそうです。
2相性脳症の病理的原因については、この記事の最後に書きました。長くなるので興味がある方は読んでみてください。
難語
アダムキュービッツ動脈
- 複数ある胸部肋間動脈の中でもっとも太いもの
- 脊髄の尾側1/3を栄養している
- 胸部大動脈→アダムキュービッツ動脈→前脊椎動脈の順で流れる
- アダムキュービッツ動脈から前脊椎動脈への移行時に特徴的なU字のカーブ(hairpin turn)を呈する事が多く、これを画像描出する事で同動脈の同定となる。
- 胸部大動脈瘤のステント留置術の副次的な作用として瘤より下部が虚血性になり、アダムキュービッツへ動脈の血流も少なくなるため、脊髄の栄養が足りず下半身付随になる症例もある
CT画像では、以下のようにカーブが描出できたら造影成功といえます。
おまけ:二相性脳症について
二相性急性脳症
けいれん重積型(二相性)急性脳症(英語名 AESD [acute encephalopathy with biphasic seizures and late reduced diffusion])は、突発性発疹やインフルエンザなどの感染症を契機に、けいれんと脳の傷害をおこす、日本で見つかった病気です。小児の感染に伴う急性脳症のうち、日本では最も頻度の高い型(急性脳症全体の34%を占める)です。典型例では初め発熱とともに長いけいれんが生じた後、意識が低下します。2日目には意識はいったん改善傾向となりますが、発病後4〜6日に2回目のけいれんが生じ、それに引き続いて再度、意識が障害されます。発病後3〜9日の脳MRI拡散強調画像で、特徴的な 大脳白質 の病変が認められます。神経学的後遺症が約70%の患者さんに残ってしまいます。
“難病情報センター”より引用 https://www.nanbyou.or.jp/entry/4513
原因は?
雑な説明だと、神経細胞細胞→ワンちゃん、グルタミン酸→ワンちゃんの糞、グリア細胞→お掃除ロボットとすると。
普段お掃除ロボットがお掃除している部屋がロボットが二度故障してしまい、ワンちゃんが不健康になっている状態と同じです。
脳には、神経細胞と、グリア細胞という2種類の細胞が存在います。脳細胞は神経繊維と神経末端より神経興奮物質を出して、あらゆる刺激を次の神経に伝えます。一方グリア細胞とは、神経細胞以外の脳細胞を指しており、神経細胞の栄養補給だったりを行なっています。
神経細胞が刺激を次の神経に渡す際に、神経伝達物質を出します。この物質の名前は「グルタミン酸」と言います。このグルタミン酸は、神経細胞の外に少量であれば問題ないのですが大量にあると神経細胞を破壊してしまいます。ここでの「少量」とは神経細胞の内部のグルタミン酸濃度に対して神経細胞の外部の濃度が1000分の1程度を表します。この濃度差は一度、神経細胞の外に放出された「グルタミン酸」をグリア細胞が回収してくれる為、成り立っています
しかし、グリア細胞が細菌感染や虚血、外傷といった予期せぬ事態によって機能を失ってしまった時に神経細胞の外に「グルタミン酸」が溢れてしまう事があります。こうした事態になると神経細胞が破壊もしくは異常な挙動をおこしてしまいます。この事から、「グルタミン酸」は興奮性毒素とも言われています。
二相性脳症では、一度細菌感染等で機能を損傷したグリア細胞が回復はしたものの、細菌との戦いに敗れてしまいまた機能を失ってしまったために再び「グルタミン酸」が神経細胞の周囲に溢れてしまい、神経細胞の興奮が止まない状態になっているとの事です。
終わりに
いかがでしたでしょうか。たった3演題でしたが、非常に密度が高い学会でした。11月にも同じような学会のレビューと難語解説の記事を作成できたらと思っています。
では、よき放射線技師ライフを!!
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