当院における小児MRI撮影で2番目に多い撮影は腰椎です
とあるMRI学会にて、発表のワンフレーズにこのような場面がありました。この学会に参加したラドピーは
腰椎?腰痛っておじいちゃんおばあちゃんがなるものでしょ?子供にMRIとはどんな意図があるのだろう?
と思ってしまいました。今回はこの理由について書いていきたいと思います。
腰椎オーダーが多い理由→脊椎分離症
オーダーに関する事なら、医者に聞くべきと思ったので自分の勤務先の整形外科医に聞いたところ
それ、絶対脊椎分離症だわ
と仰っておりました。医学的に小児とは、女性であれば14歳、男性であれば16歳程度が小児と定義さてています。
一方、とある整形外科のHPによると脊椎分離症の好発年齢は以下のように示されています。
10〜15歳、特に13~14歳のジュニア期をピークに、男子の発症が圧倒的に多くなっています。
”間庭政界外科HP“より引用
この年齢の方で2週間以上腰痛が続く場合は、腰椎分離症を念頭に入れる必要があります。
もちろん、直接演者から聞いた訳ではないのでもしかすると違う理由によりオーダーが出ている可能性もありますが、好発年齢と医師から聞いた話でほぼ「脊椎分離症」精査のMRIがよくオーダーで出ていると考えていいでしょう・
脊椎分離症の病態
脊椎分離症とは
上の画像のように、本来なら椎体(側面像で見ると椎体左側の四角い部分)と棘突起(椎体右側の棘が生えているよう部分)はつながっているが、なにかの拍子でこのつながりが途切れてしまう状態のことを言う。
その他の病態
- スポーツをする方に多く見られる事から疲労骨折の一部とされる
- 小学生から高校生までが好発年齢
- 全人口の内、6パーセントの方が罹患されるとされている。男女の性差もあり、日本人の成人に限っては男性が7.9%、女性が3.9%のとなりやや男性優位で発生しやすい。
- 一度分離症になってしまうと、椎体滑り症など生涯にわたる椎体の変形に伴い、一生腰痛に悩まされる身体状況になってしまう。
- 下肢に疼痛が出てくる
なぜMRI?
結論からいうと
脊椎分離症が今どのステージ(経過時間)なのかによって、とるべき治療法が全く異なり、このステージを決めるにはMRI撮影が不可欠だから
となります。
脊椎分離症のステージは4つの進行期がありざっくりそれぞれの特徴を以下に示す。
超初期 | 初期 | 進行期 | 末期 | |
一般撮影による骨折線 | × | ○ | ○ | ○ |
CTによる骨折線 | × | ○ | ○ | ○ |
脂肪抑制T2協調画像による椎弓付近の高信号像 | ○ | ○ | ○ | ○ |
治療の目的 | 骨融合 | 骨融合 | 骨融合 | 疼痛管理、場合によっては手術 |
骨融合までにかかる時間 | 分離してない | 2から3ヶ月 | 4から6ヶ月 | 1年 |
超初期では、MRIの高信号領域(青矢印)のみ所見が出ていて、CTによる骨折所見(赤矢印)は出てない
表を見てもらうと、超初期のみ一般撮影とCT撮影で骨折線が確認できないが、MRIでは発見できるとなっています。ここでみなさんが思う事として
超初期から進行期までは治療方針が同じだから、やる必要無くない?
と思う方もいるかもしれません。
しかし、もしお子さんが超初期でCTとレントゲンだけ撮影してなにもないので筋疲労か気のせいでしょと診察された⇨数週間後に、さらにひどくなって再度受診したら脊椎分離症だった。じゃああの時の診断は誤診だったんじゃない?
となる事を防ぐ為にも、MRIを撮影する事が求められるようです。間庭整形外科のHPによると2週間以上の腰痛を患者が訴える場合にはMRI撮影が推奨されるらしいです。
画像検査についてもう少しだけ詳細を述べると
- 初期の段階で、腰椎斜位撮影において椎弓根の亀裂(テリアのサイン)や部分的に骨透亮像(骨が透けている状態)が見られる
- 腰椎斜位像の椎体がテリア犬に似ている事から命名され、脊椎分離症ではテリア犬の首輪のようなシェルエットサインが映る
- 進行期で明瞭な亀裂が出てくる
- 終末期では、偽関節像が見えてくる
脊椎分離症の治療
超初期から進行期まで⇨骨融合(千切れた椎弓が椎体と自然にくっつく事)を目的とする
- スポーツの中止の指導
- 腰椎硬性体幹装具(コルセット)の着用による固定
終末期⇨疼痛管理
- スポーツの中止の指導
- 腰椎硬性体幹装具(コルセット)の着用による固定
- 偽関節によって脊髄が圧迫されて疼痛が出てしまうので、ステロイドを用いて神経根ブロックをする。
- 手術(上3つに効果がない患者のみ)
麻酔は必要?
後発年齢を考えると、検査前の説明等で検査の流れについて概ね理解ができる年齢だと考えられるので基本的には麻酔が不要かと思われます。
ただし、好発年齢よりも若い年齢層の子供や、20分程度の撮影時間の間じっとする事が困難な場合には麻酔科のMRIが撮影される事もあるかもしれませんが
- 麻酔下で検査を行うリスクが、病気発見のメリットを上回るか
- 麻酔下での、呼吸停止等に対応できる体制の病院が完備されているのか?
といった、問題があると思われます。ですので、麻酔下で脊椎分離症のMRIを撮影する可能性は低いかと思われます。
というのも、現在主にMRI撮影に使用されている麻酔薬は「トリクロ ホスナトリウム」という経口形式の麻薬であり、聖路加国際大学の行った研究によると416 施設中 147 施設(35%)に呼吸抑制,呼吸停止,徐脈,心停止などの 重篤な合併症の発生を認めたとある。
つまり、10人中3人が何らかの異常が出てしまう麻酔を打ってまで検査を続けるメリットが感じられないというのが率直な所感である。(主観を大きく含みます)
すみません、30パーセントという数字は施設の数で、患者個人に対するの副作用率ではなかったです。 それでも、30%の副作用は大きいと思われます。その根拠として小児医療安全委員会からのレポートによると ・鎮静化のMRI検査を入院で行うと回答した施設は全施設(341施設)中、30.3% ・仮に入院を選択する場合に、その入院の根拠となる理由として「予期せぬ有害事象が発生したから」と回答した施設は43.4% ・麻酔下でのMRI撮影を行なっている全施設(230施設)の内、67.4%の施設が検査中に誰かが監視をしている。 ・検査後であっても、覚醒まで医師または看護師が監視を続けている施設は全施設(341施設)の内70.4%が行なっている。
ですが、乳児であれば授乳によって満腹感を得られる事で覚醒状態から非覚醒状態に以降する症例もあると学会でお聞きした事があります。ですので、MRI検査中に麻酔薬なしで安静状態に以降できないからといって、麻酔が絶対的な選択だとは思えません。(個人的な意見を大きく含みます)
おわりに
いかがだったでしょうか。
MRIの撮影によって、椎弓が分離してしまう前に病気を見つけてあげればスポーツを中断する時期が短くなったりと患者さんにおおきなメリットがあるので検査が多く行われている事が分かりました。
なので、オンコールでも優先して検査をしてあげたいですね。
では、良き技師ライフを!!
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